2015年5月23日土曜日

スーパーモグラの視力


『太陽系の第3惑星「地球」。半径約6370Km、赤道部がわずかにふくらんだ回転楕円体である。地上では、遺伝子操作により超能力を与えられたスーパーモグラが地中探査のセンサーとして活躍していた。

2999年12月7日、太平洋の孤島から灼熱の地底目指し、スーパーモグラは出発した。66日後、地球中心部に到達する予定である。30世紀後半、人工オゾン層の機能が異常となり、地上に降り注ぐ太陽エネルギーが減少、地球は寒冷化に向かっていた。地中からULF(超低周波)電磁波放射が人工オゾン層に与える影響を疑うプロジェクトチームは地底の探査を開始した。このスーパーモグラは時速4Kmという人の歩く速さと同じ速度で地中を進むことが出来、4×10の6乗気圧の圧力に耐え、6000度という猛烈な温度も平気である。そして地球の核から、はるか6千Km遠方の地表を見通すことも出来る。



そのころ、孤島の周辺では31世紀を迎えるモニュメント制作が最後の段階に入っていた。直径5海里、幅1海里(約1.8Km)の巨大なドーナツに1海里の切れ目が入ったモニュメントは、アルファベットのCに似ている。眼科の視力検査に使われているランドルト環とよばれるものだ。しかし、ただのモニュメントではなく、実はULF受信のためのループアンテナであった。 




12月中旬、38万Km彼方、地球の衛星である月の通信基地から完成したばかりのモニュメントを倍率60倍の小型双眼鏡で眺めている一人の隊員がいた。彼は太平洋に浮かぶドーナツ状のアンテナを見つけると、さらに1海里の環の切れ目が北を向いていることが確認できた。
2月11日、スーパーモグラは地中の様々な観測データを集め、核の中心に到達、記念すべき日となった。400万気圧という猛烈な圧力とは裏腹に、そこは白色の無重力の世界であった。そこからスーパーモグラは洋上を見上げ、ランドルト環の切れ目が北の方向を指していることを確認した。・・・』
視力は2点を2点として分離することの出来る最小の角度の逆数で表わされます。この最小分離角が1分(60分の1度)を見分けることの出来る能力を視力1.0と定めています。海上で使われる距離の単位「1海里」は、地球の中心から角度1分の地表の距離です。即ち、1海里を地球中心から見分けるスーパーモグラの視力は1.0となります。一方、月面基地の隊員は双眼鏡で地球までの距離の60分の1に接近し、地球の半径とほぼ同じ距離(38万Km÷60=6330Km)の上空から環の切れ目を判別していることになり、視力は1.0となります。