2015年3月9日月曜日

VDTと目の疲れ



1 はじめに
 VDTとはVisual or Video Display Terminalの略です。コンピュータのモニタ用ブラウン管、データ入力を行うキーボード、プリンタなどを含むこれらの端末機器の総称です。近年、これらの端末機を使いながらの仕事の方が、一般事務より目を酷使する機会が多くなりました。長時間継続すると、全身の疲労症状を来し、症状の蓄積から病的疲労に移行し、複雑ないわゆる不定愁訴をもたらします。ここでは眼を中心に、症状、労働衛生について述べてみます。



2 VDT症候群
 VDT作業を行い、いろいろな不定愁訴を訴える患者を米国では通俗的に「VDT症候群」と呼んでいます。また、VDT症候群のうち、眼の不定愁訴のことを「テクノストレス眼症」と呼ぶ人もいます。
2.1 VDT症候群の症状
2.1.1 
 疲れ、視力低下、かすみなどが主で、眼科的には眼精疲労、近視、乱視、結膜炎、角膜炎、
麦粒腫、眼圧上昇、涙液分泌障害、網膜障害がある。
2.1.2 頚肩腕障害
 肩こり、首が痛い、手のしびれ、腰が痛む、頭痛、背筋痛がある。
2.1.3 精神神経疲労
 精神疲労、単調、追われる、思考がうまく展開しない、空しい、人との疎外感、孤独、依存性がある、不安、うつ、心身症、自律神経失調症などがある。
2.1.4 その他
 婦人科に関する問題に生理不順、流産がある。
以上、VDT症候群の文献に記載されているものを示した。


2.2 VDT VDTと近視
 30歳代、40歳代にも近視の進行があるという報告があります。近くを見る作業と近視、眼の疲れ、調節筋の緊張などがその原因です。ピントを合わせる筋が安静のときが正視の人では無限大ではなく、眼前67cm前後にあることが証明されています。目が疲れたら、遠方をぼんやり見るのではなく、67cm前後の調節安静位置に焦点を合わせることが、目の疲れをとることになります。
2.3 眼の 眼の神経系とVDT
 VDT作業後は瞳孔が小さくなります。つまり、眼のピント合わせのとき縮瞳(瞳孔が小さくなる)しているため
眼の疲れを訴える症例があります。VDT作業ではブラウン管、キーボード、書類と交互に眼球を運動させる必要があり、このときは輻輳((ふくそう)といって近距離のある一点を見つめたときに両目が鼻側に寄る機能が伴っています。VDT作業では頻繁に眼球運動を行い、しかも大きな輻輳で行うため目が疲れます。
2.4 妊娠 妊娠とVDT
 サンフランシスコで1583人の妊婦を調べたところ、外で仕事を持つ女性はどの職種でも、在宅女性より流産率が高い。VDTで週に20時間以上作業している女性の流産率は他の職業よりもさらに高く、1.8倍に達することが明らかになりました。(News Week, June 30, P47, 1988)。


3 VDT VDT VDT 症候群予防のための労働衛生上の指針
 VDT症候群が発症しないように予防するためには、何よりもVDT作業の労働環境の整備と労働衛生環境が必要です。19851220日、労働省労働基準局発第705号「VDT作業のための労働衛生上の指針について」があります。これはあくまでも指針で、法律ではありませんが、目に関する事項を中心に概説します。
3.1 作業環境管理
3.1.1 照明および彩光
 室内はできるだけ明暗の対照が著しくなく、まぶしさを生じさせないようにする。陰画表示CRTディスプレイを用いる場合の画面照度は500ルクス以下、書類およびキーボード面における照度は300
ルクスからおおむね1000ルクスとする。直接太陽光線が入射するなどの高輝度の窓については、ブラインドまたはカーテンなどを設け、必要に応じてその輝度を低下させることができるようにする。
3.1.2 グレア(まぶしさ)の防止
 CRTディスプレイは、作業者の視野内に高輝度の照明器具、窓、壁画や点滅する光源などがなく、かつ、CRTディスプレイ画面にこれらが映り込まないような場所に設置する。映り込みがある場合には必要に応じ、次の措置を講じる。
) CRTfィスプレイ画面の前後の傾斜の調整を行う。
) 低輝度型照明器具を使用する。
) CRTディスプレイにフードまたはフィルターを取り付ける。または反射防止型ディスプレイを用いる。
3.1.3 VDT機器の調整
 CRTディスプレイ、キーボードなどに関して細かな記載がなされているが、最近の機器の進歩を考えるとあまり問題はないので省略する。


3.2 作業 作業管理
3.2.1 1日の作業時間など
 VDT作業に常時従事する者については、視覚負担をはじめとする心身の負担を軽減するため、VDT作業以外の作業とのローテーションを実施することなどにより、1日のVDT作業時間が短くなるように配慮することが望ましい
3.2.2 連続作業時間など
 VDT作業に常時従事する者にとっては、1連続作業時間が1時間を超えないようにし、次の連続作業時間までの間に10・・・15分の休止時間を設け、かつ、1連続作業時間内において、1・・2回程度の小休止を設ける。
3.2.3 休憩のとり方
 VDT作業と休憩は虹彩の中にある瞳孔括約筋による縮瞳はピント合わせがなくなっても瞳孔の大きさは小さく縮んで元に戻るのに15分くらいかかるということである。つまり、副交感神経の強い緊張が見られることである。米国のNIOSHの勧告でも、1時間のVDT作業に15分の休憩が理想としている。


3.3 健康 健康管理  VDT作業常時従事者に対しては、次のように健康管理を行う。
3.3.1 健康診断
 VDT作業に新たに従事する者(再配置の者を含む)の配置前の健康状態を把握し、その後の健康管理を行うこと。
) 業務歴の調整
) 既往歴および自覚症状の有無の調査
) 眼科的検査:視力検査、眼位検査、調節機能検査、眼圧検査
3.3.2 健康診断結果に基づく事後処置
 配置前または定期の健康診断によって早期に発見した健康阻害要因を詳細に分析し、有所見
者に対して次に掲げる保険指導などの適切な処置を講じるとともに、予防対策の確立を図ること。愁訴の主因を明らかにし、健康管理を進めるとともに、職場外に要因が認められる場合についても必要な保険指導を行うこと。視力矯正が不適切な者、特に強度の近視、遠視、乱視の者には適正視力でVDT作業ができるように、必要な保険指導を行うこと。VDT作業を続けることが適当でないと判断される者やVDT作業に従事する時間の短縮を要すると認められる者などについては健康保持のための適切な処置を講じること。
3.3.3 健康相談
 VDT作業従事者が気軽に健康について相談し、適切なアドバイスを受けられるように、健康相談の機会を設けるように努める。
3.3.4  職場体操
 VDT作業常時従事者については、就業の前後または就業中に体操を行わせることが望ましい。
3.3.5 労働衛生教育
 労働衛生管理のための諸対策の目的と方法をVDT作業従事者に周知することにより、職場における作業環境、作業方法の改善、適正な健康管理を円滑に行うため、およびVDT作業による心身への負担の軽減を図ることができるよう、必要な労働衛生教育およびVDT作業の習得訓練を行うべきである。


「まとめ」
かつて、白黒テレビが家庭で普及しはじめた頃、テレビと目の関係が眼科的に大きな話題になりました。しかし、現在ではテレビと「目の疲れ」についてとやかく言う人はあまり多くありません。文明の発展と人間の関係はこのようなもので、VDTにも言えるのではないでしょうか。情報社会の進展に比例してコンピュータは不可欠の世の中となり、職場はも
ちろんのこと、家庭ですらVDTを使用する頻度は増え続けています。企業職場を見ていると、目の疲れは当然と思わせる現状があります。職場の環境整備やVDT機器の進歩、労働衛生教育によって、早いうちに、ある一定の制限内であるならば、VDT作業が目に悪影響を与えず、楽しくVDT作業ができるようになることを望んでいます。 【高木眼科病院提供資料より】