2014年12月20日土曜日

プラスチックレンズの光透過特性

       プラスチックレンズの光透過特性 

6月は紫外線の多い季節です。太陽高度が一年中で最も高く、梅雨の合間に輝く太陽の光は強烈です。日本では紫外線量が最大となります。柱暦によると1998年は6月21日が夏至となっています。太陽が高くなるといっても、いったいどのくらいの高度になるでしょうか。夏至の日、今治市(愛媛県)での太陽高度を調べてみました。
 海図を見ると北条市浅海から今治市桜井を結んだ線に北緯34度線が通っています。図面より今治市は北緯34度付近に位置していることがわかりました。因に、高木眼科病院は北緯34度3分44秒にあります。1秒を距離にすると約30mですが、図面の精度から考えると数秒(数十m)の誤差があると思います。太陽高度の季節変化は地球の回転軸の傾きにより生じます。地軸は約23.5度傾いているため、今治市の正午の太陽高度は「(90-30)+23.5=79.5」度となり、更に大気差も加わります。
 大気差とは、大気による光線の屈折現象のために、天体が浮き上がって見える現象です。大気を大きなプリズムと考えると眼位矯正と同じ理屈で理解できます。大気差は赤道儀を用いた自動追尾装置による天体写真の失敗の原因となるやっかいなもので、天文年間の資料によると、見かけの高度10度での真の高度は約9度54分、70度では約69度59分となっています。天体の高度が低いほど影響が大きくなります。
 約80度といえば、ほとんど真上から太陽が輝いていることです。日本でこんなに太陽が高くなるとは思ってもいませんでした。もう一つ紫外線が強くなる原因があります。図のように光線が地表に届くまでの地球大気の厚みが違っています。6月は最も薄い大気層を通過するため、吸収・散乱によるエネルギーの減衰が少なく、強い光が地表に降り注ぎます。このように、6月の紫外線が多い原因は、地表の単位面積あたりの受光量が多いこと、光が通過する大気層が薄くなることの2つです。 地球上の生命にとっては有益でもあり、眼にとっては有害な紫外線。サングラスが重宝がられる季節です。最近はプラスチックレンズ全盛の時代となり、重いガラスレンズは需要の低下と共に種類を減らし、カラーレンズはほとんど見掛けなくなりました。軽くて割れにくいプラスチックレンズは万能レンズなのでしょうか? 今回、ハンフリーのレンズアナライザを用いて300~700nmの帯域によるカラーレンズの透過率特性を測定し、プラスチックレンズの問題点を考察してみました。
 図(1)は、HOYAのプラスチックカラーレンズ(グレー75%)と、カメラに用いるガラスのフィルターレンズ(グレー80%)の透過率特性です。グラフより、ガラスのフィルターレンズでは可視光線全体域でフラットに光を吸収する理想の特性となっています。しかし、HOYAのプラスチックレンズでは400~650nmの帯域で約70%の光を吸収するサングラスレンズの特性を示していますが、650nm以上の波長(色に置き換えると赤)は吸収されず、700nmでほぼ100%透過しています。
 2つのレンズの色を比べると、外観はどちらも濃いグレーにしか見えません。しかし、プラスチックレンズは赤から赤外の帯域について、ほとんど遮光機能がないことがわかりました。各種のカラーレンズで特性を調べてみましたが、メガネレンズとして最も普及しているCR39の素材を用いたプラスチックレンズは色の種類、濃さに関係なく、全て類似した特性を示しました。色の濃いレンズを装用すると瞳孔が開きます。波長の短いUVは角膜で吸収され、眼内への影響は少ないと考えられますが、組織への透過性が大きい長い波長だけを多量に瞳孔内へ通すことは、メガネレンズ素材として問題があるのではないでしょうか?
プラスチックを染色したカラーレンズは物体が赤っぽく見えることが以前よりわかっていました。染色器や染色の方法に問題があるのかと社内で議論となったこともありましたが、今回の実験で長い波長は透過していることを確かめることが出来ました。このように、プラスチックレンズの透過特性をフラットに揃えることが出来ない原因はレンズの素材と染料に問題があるのではないかと考えられます。



 室内でカラー写真を撮ると、色の冴えないプリントが出来上がります。蛍光灯の部屋では緑色の強い色調となり、白熱電球の部屋では赤く発色します。現像所では自動的にある程度の色補正をしてプリントしていますが、これにも限界があり完全なものではありません。このようなカラーバランスを補正するフィルターがあります。
 FL-Wは紫色のフィルターで500~550nmの緑の帯域を吸収することで蛍光灯の色調を補正しています。C-12は青色のフィルターで長い波長ほど吸収する特性を持っています。これらのフィルターを用い、写真を撮ってみました。その結果、人や物の色合いが本来の色調にプリントされ、肌色も自然です。室内で写真を撮る機会の多い人は効果抜群、是非試して欲しい重宝する備品です。ストロボを使わない自然光での写真は立体感があり、雰囲気のある写真を撮ることが出来ます。ISO400の高感度フィルムを使用すれば速いシャッターが切れて、失敗もありません。





2014年12月17日水曜日

眼鏡発展の歴史



視覚は多くの情報を提供してくれますが、最も多くのトラブルに悩まされてい
る感覚器官でもあります。現代社会からもしも眼鏡が無くなれば、どのような
生活を強いられるでしょうか。読み書きに不自由し、車の運転もできなくなり
、日常の生活が困難となります。眼鏡なしでは、現代の高度な文明を築き上
げる事はできなかったでしょう。眼鏡には大きな文化史的な意味があります。






 紀元前、エジプト、ローマ、ギリシャの文明には視力補正用器具はまだあり
ませんでした。当時を物語る資料として、マルクス・トルリウス・キケロ
(B.C.106~43年)が彼の友人アティクスに書いた手紙に、老齢になって自分
では読書ができないために、奴隷に読ませて聞き取らねばならないことを嘆
いた諦めの告白があります。キリストの生誕後、ローマの著作家ガユース・プ
リニュウスは皇帝ネロが闘技者の試合をエメラルドを通して見物していたこと
を報告しています。この引用文からローマ皇帝ネロは近視で、凹型に磨いて
あるエメラルドを通して試合を見ていたことが推察できます。さらに、プリニュウ
スの本の中でネロは次のように言っています。「眼に対してエメラルドの色より
も快適な色はない。エメラルドは眼の疲れを回復させ、エメラルドの快い色は
視力を強化する」。皇帝ネロがエメラルドを用いて太陽の眩しい光を防ぐように
していたという別の記述もあります。古代においてもレンズは知られていたよう
ですが、屈折異常の矯正の為よりも、景色に色をつけて見る為に用いられてい
ました。



 古代中国においては、多くの物が古代ヨーロッパ
よりも開発されていましたが、眼鏡の開発に関して
はそうではなかったようです。中国人は、2000年前
より眼鏡を用いていましたが、これは視力を矯正す
る為でなく、ガラスの中に存在すると考えられる空
想の力「YOHSHUI]が視力の弱い人を助けるという
理由から用いられました。グレーフによると、この石
はアイタイ石と呼ばれ、明るい色と暗い色の2種類
がありました。これ以外の目的として、サングラスと
しても用いられました。





 古代 エジプト人とギリシャ人は反射の法則を既に知
っていましたが、光学レンズの作用については知らな
かったようです。ガラスは発火ガラスとして用いることが
できることも知っていました。プトレメウス(西暦85~169
年)が初めて入射角と反射角の法則を発見し、光学に
ついての最初の本を著しました。現在私たちが知って
いる屈折の法則は、スネリユス(1581年~1626年)が
発見しました。


 

様々な資料より、最初の眼鏡は13世紀末に現れていて、それまで眼鏡は発明されて
いなかった、と考えられています。・・続く(参考図書 :W.POULET /ATLAS ZUR GESCH
ICHTE DER BRILLE)





2014年12月16日火曜日

メガネレンズ、くもりの科学

メガネレンズ、くもりの科学 


 飽食の時代に自ら模範となるような食生活を実践している人を、朝のラジオで紹介していました。
彼の名前はスクワイヤーさん(国は忘れてしまいました)。Naturalist[自然主義者]と呼ばれている人
です。現代の車社会において人だけでなく、世界中で多くの動物が交通事故で死んでいます。彼は
この動物たちをそのまま捨ててしまうのはもったいないと考えました。そして、事故死の動物を拾って
食べ始めたのです(ゲー!)。動物の種類別による美味しい調理方法も研究しました。例えば、リスは
肉を細切れにして(拾った時に、既に細切れになっていることもある)バーベキューにします。ヘビは小
麦粉をまぶして、油で揚げるとチキンのような味で美味しいそうです。


 さて、爽やかな話題のあとは、「レンズのくもり」について考えてみます。「くもらないメガネはありませんか?」と、お客様からよく聞かれます。食事中、スポーツの時、外から部屋に入った時、周囲の変化でメガネはよく曇ります。曇らないメガネはできないものでしょうか?。実は以前から販売されています。防曇(ぼうどん)レンズという名前のプラスチックレンズです。しかし、商品として致命的な欠点があり、一般にはほとんど販売されていません。それは、レンズの表面が非常に軟らかく、キズ付き易いという性質です。歯科医師はマスクをして治療する際に、メガネがとても曇りやすいそうです。この防曇レンズを先生に使ってもらったところ、半年もたたない間にレンズはスリガラスのようになってしまいました。この防曇レンズは表面に親水性の皮膜をコーティングして、水蒸気が結露しにくい構造をしていますが、この皮膜が軟らかいためにキズ付いてしまうのです。
 冬場、朝の電車に乗るとメガネをかけている人は車内に入ったとたんにレンズが真っ白に曇ることがあります。一方夏場、冷えたビールをテーブルに置くと、同じように曇ります。これらは相対湿度と露点温度により説明できる、結露と呼ばれる現象ですが、自然界の霧(移流霧)が発生するメカニズムと同じ現象です。
霧発生のメカニズム
「移流霧」
移流霧は空気のかたまりが水平に移動することをいう気象用語です。鉛直方向に動くものは対流です。暖かい空気が温度の低い地表面(海面)上に移動し、冷やされてできる霧のことで、日本付近の暖かい黒潮の上にあった空気が南よりの風とともに北上し、冷たい親潮海流の上で冷やされる海霧が典型的な移流霧です。これは冬場の朝の電車でレンズが曇ったり、冷蔵庫から出したビールビンが曇る現象と同じです。親潮海流がレンズ、黒潮海流上の暖かい空気が電車内の空気に相当します。

「放射霧」
晴れた夜、地表は赤外放射(地表が赤外線を放出して地表が冷える)により冷え、それに接した空気の温度が下がり、明け方霧が発生するもの。この現象は地表そのものが冷える、というところに特徴があります。
「蒸気霧」
冬、寒い戸外で吐く息が白く見えるのと同じ現象です。水蒸気を多く含んだ暖かい空気が、まわりの冷たい空気と混合して飽和に達した場合です。温泉町の白い湯煙、紅茶の湯気も同じです。

「前線霧」
風呂場でシャワーの暖かい水滴が蒸発し、空気が過飽和になり、余分な水蒸気が霧粒となったものです。温暖前線で相対湿度が増したところへ高温の雨粒が落下したときに発生する霧です。

「上昇霧」
山腹に沿って空気が上昇すると断熱膨張のため空気の温度が下がり空気中の水蒸気が結露してできる霧です。この現象ではスイミングゴーグルが曇る原因を説明できます。体温で暖められたゴーグル内の空気がプールの冷たい水で冷却され、結露する状態です。


これらの霧はレンズが曇るメカニズムには直接当てはまらないものもありますが、くもりについての正しい認識を教えてくれる自然現象です。
 このように、レンズの曇りは”湿り空気の中に、その空気における露点温度以下の物質が入ったとき”と説明できます。レンズに接している空気の相対湿度が100%を超えようとした時、水蒸気が水滴に変化し、レンズ表面に付着した状態です。レンズ表面に均一の厚みで付着すれば曇りは生じませんが、水滴は水の表面張力によって半球状に無数に付着し、レンズに入ってきた光を散乱させ、曇りを生じます。
くもりを止める
基本的には、次の3つです。
(1)表面に親水性の皮膜を貼る。
(2)接触角を小さくする。
(3)接触角を大きくする。
(1)はレンズ表面に親水性高分子を コーティングしたり、貼り合わせたりするもの。
(2)は水滴の接触角を小さくする方法で、海面活性剤を塗ったり、コーティング加工して結露した水滴を広げ、平らに濡れることで防曇性を持たせるもの。
(3)は(2)の逆で、接触角を大きくすることにより、結露した水滴を玉にして表面からころげ落ちるようにした方法です。ハスの葉から雨水が玉になって落ちるものです。



メガネの曇り止めとして市販されている液は(2)の接触角を小さくする方法です。今後は(1)や(3)の接触角を大きくする撥水加工の技術が注目されています。近い将来くもらないメガネが製品化される可能性は大きいですが、物理法則に従う「くもり」の自然現象を克服するのは、かなり困難な問題です。




2014年12月15日月曜日

コンタクトレンズの種類と特徴

 コンタクトレンズには様々な種類があります。レンズ素材で分類すると、ハードとソフトですが
、機能別に分けると近視用、遠視用だけでなく、乱視のコンタクトレンズや遠近両用コンタクトレンズ
もあります。団塊の世代がそろそろ老眼年齢?にさしかかってきました。今後、遠近両用
コンタクトレンズが見直され、普及していくことが考えられます。



ハードコンタクトレンズ 黒目より小さい(直径9mm程度)、硬いタイプのコンタクトレンズです。まばたきによってレンズが上下に動くため、異物感を感じたりゴミを巻き込んだりすることもあります。しかし、ハードコンタクトレンズの場合、ゴミが入るとすぐに気付くので、重大な角膜傷害へ発展することは希です。また、ハードコンタクトレンズは光学性能が高く、乱視の矯正にも優れています。 最近のハードコンタクトレンズはすべて酸素透過性の素材を使っています。また、まばたきによってコンタクトレンズは角膜の上を動き、レンズと角膜との間の涙を入れ替えることで角膜に酸素を届けています。このように酸素を通しやすい仕組みを持つことが、ハードコンタクトレンズの優れた特徴です。


ソフトコンタクトレンズ
 黒目より大きく(直径14mm程度)、レンズが水分を含んだやわらかいタイプのコンタクトレンズです。ズレにくくはずれにくいため、スポーツをする方に適しています。装用感が良いので、ゴミが入った場合にもあまり痛みを感じられないことが多く、気付かないまま装用を続けると、角膜にできたキズに細菌が付着し、角膜傷害をひきおこすこともあります。 通常のソフトコンタクトレンズはレンズに水分(涙)を含み、その涙を介して酸素を角膜に届けています。そのため、理論的に水の酸素透過係数を超えることは不可能です。ソフトコンタクトレンズの酸素透過性には限界があり、ハードコンタクトレンズの4分の1程度にとどまります。装用感が良いという優れた特徴を持つ反面、このようにハードコンタクトレンズに及ばない欠点もあります。


酸素透過性の大切さ
 呼吸している角膜にとって、酸素は必要不可欠なものです。酸素透過性の低いコンタクトレンズの装用を続けていると、角膜に酸素が不足し角膜が厚く腫れる角膜膨潤をひきおこします。角膜表面の細胞が剥がれ、細菌などが細胞の剥がれた部分に接着し、細菌感染をおこすなどのトラブルが発生します。コンタクトレンズの酸素透過性はDk値(酸素透過係数)であらわします。Dk値の高いものほど、角膜に多くの酸素を供給する事が出来ます。 最近は使い捨てのソフトコンタクトレンズが普及していますが、細菌による感染症は相変わらず多く報告されています。汚れる前に捨てるので、感染などおこすのは不思議だと思われるでしょうが、最近の研究でソフトコンタクトレンズによる酸素不足が角膜の抵抗力を弱めていることが分かってきました。ソフトコンタクトレンズを使用する時は、普段の手入れと、長時間入れすぎないことが大切です。


乱視コンタクトレンズ
現在販売されている乱視を矯正するコンタクトレンズはソフトタイプのレンズです。ハードコンタクトレンズはレンズの特性上、乱視の矯正効果を持っています。乱視の強い人がハードコンタクトレンズを装用すると良く見えるのは、コンタクトレンズと角膜の間にできる涙のレンズ(ティアレンズ)が自然に乱視を打ち消しているのです。このような乱視は角膜直乱視と呼ばれる一般に多い乱視の種類です。 逆に倒乱視や水晶体乱視があると、その組み合わせによって、ティアレンズが益々乱視を強めてしまい、ハードコンタクトレンズでは良い視力を得ることが出来ないことがあります。このような時、乱視のソフトコンタクトレンズが便利です。乱視のコンタクトレンズをソフトトーリックレンズと呼んでいます。乱視には、近視性複性直乱視、近視性単性斜乱視、遠視性複性倒乱視、混合性直乱視・・・まだまだたくさんの種類がありますので、ここでは詳しい説明を省略します。
※使い捨て乱視用のコンタクトレンズもあります。



遠近両用コンタクトレンズ
 遠近両用コンタクトレンズは、現在ほとんど市場に出回っていません。レンズの完成度の要因もあったと思われますが、一番普及を妨げていたのは、対象となる消費者がコンタクトレンズに馴染みのない年齢層だったことだと思います。ところが、コンタクトレンズを便利に利用してきた団塊世代がそろそろ老眼をむかえる年齢となってきました。今後、徐々に普及していくと考えられます。


レンズの構造
 「交換視型」と「同時視型」の2つのタイプがあります。交換視型はメガネの遠近両用バイフォーカルレンズの構造とよく似た仕組みです。視線の移動によって、遠用部または近用部のどちらか一方を用いて物を見る構造を持っています。交換視型は、遠、近それぞれ専用の光学領域により対象を明視できることが最大の特徴です。問題点としては、遠、近の切り替えで視線移動を必要とするため瞼裂幅の狭い人には不向きであること、光学部の境目で像の跳躍を生じたり、中間距離にピントが合わないという点です。
 同時視型はレンズの中心部が遠用部、その周辺が近用部という構造を持っています。眼鏡の累進多焦点レンズの構造に似ています。常に遠くと近くが同時にピントが合っているので、脳が選択したものが自然に見えてくる、という不思議なレンズです。近用の加入度を得るためには、通常の光学レンズと同様、光の屈折作用を利用する方法と、光の回折作用を利用する方法があります。同時視型は、レンズ回転による視力の影響が少なく、フィッティングが比較的容易です。問題点としては、同一光学面に遠用、近用の度数が分布しているため、網膜に達する遠方像および近方像の光量が低下し、夜間の使用には注意が必要です。